私はいったい何者なのか。

 

自分というものは自分ではわからない。

第三者から見た「わたし」を

自己紹介させていただきます。


 

苦しみを知っているからこそできること

 

 

 

ぱつんと切りそろえられた前髪に、笑うときれいに口角の上がる口。カラフルな壁紙にグリーンがセンス良く飾られた自宅のキッチン。発信する言葉はどこか詩的な印象を受ける。整理収納アドバイザー石山可奈子さんは、本人が望む、望まないに関わらず「映える」人だ。それゆえに、発信する内容=その人、と捉えられがちな今の時代において、「イメージが先行してしまっているかも」「自分って何者なのだろう」という“置いてけぼり感”を抱えているという。見た目の華やかさとは裏腹に、石山さんの活動の軸にあるのは「困難を乗り越えようとする人を応援したい」というビジュアルでは表現しづらい真摯な想いだ。それは、大変な困難を経験した石山さんだからこその切実な願いとも言える。

 

 

   

 

「片付けられないのは遺伝」の呪縛を解かれて

 

 

 

石山さんは現在、「しつらえのおけいこ」と題した自宅セミナーの他、色々なオリジナル講座を開催したり、セミナーの参加者を対象とした整理収納サポートを行ったりしている。整理収納に関しては、「本当はその人の家に行って、一緒に作業をした方が手っ取り早い」と感じているが、彼女は段階を踏んでもらうことを大切にしている。それは、元々片付けられなかった自分を思うと、本当に悩んでいる人はアドバイザーを気軽に呼べない、と感じているからだ。

 

 

 

 整理収納アドバイザーとしても仕事をしている私の個人的な感覚では、アドバイザーの構成比は、元々きれい好きな人6割、元々片付けられない人3割、その中間の人が1割くらいだろうと思う。石山さんは「元々片付けられない人」、しかも事態はかなり深刻であった。

 

 

 

 生まれ育った実家も“汚部屋”で、自分が片付けられないのは遺伝だからしょうがないと諦めていたという石山さん。その誤解に気づくことになったきっかけは7年前、突如発症したパニック障害だった。家からも出られない、子どもはまだ幼稚園生なのに、家事も世話も何もできない…「人生終わったな」と感じるほどの辛い日々が続いた。「生きるために」乱れた家をどうにかしなければという状況で、彼女は整理収納という考え方に初めて出会う。「片付けられないのは遺伝じゃなかったんだ、やり方を知らなかっただけなんだ!と35歳にして初めて気づいたんですよね」。家の中が片付いていくのと共に、体調も徐々に回復していった。そして、同様に困っている人の助けになりたいと思うようになったそうだ。

 

 

 

 人は、経験しないと想像すらできないことが山ほどある、というのは私が常日頃から忘れないようにしていることの一つだが、「元々片付けられない人が、整理収納という手法によって片付けられるようになる」に至る苦しみや喜びは、やはり経験した人にしか分からないのだと思う。どん底を知っている石山さんは、片付けられないと悩む人に過去の自分を重ね合わせて心を寄せられる。きっと伝えるのはノウハウに留まらない。「マインドが大事」という彼女の言葉は実体験によるものだから、とてつもなく説得力がある。

 

 

 

困っている人を助けたい

 

 

 

石山さんのこれまでの人生の話を聞いていると、困っている人を助けたいという想いが人一倍強いことがよく分かる。発信している言葉には読者を励ましたい、応援したい、という想いがあふれ出ている。

 

 

 

出産するまで幼稚園教諭をしていたのも、自分が子どもの頃感じた「寂しかった」「こうしてほしかった」という思いと同様の感情を抱く子どもを、可能な限り減らしたいと思ったから。新人整理収納アドバイザー向けにトークイベントを開催するのも、オリジナル講座をつくるための講座を開くのも、自分の経験を何か役に立てられないか?と常に考えているから。自らが苦しんだ経験を他の人にとってのプラスに変えたい…その想いを実行に移すのは、実は大変に勇気が必要なことだと思う。

 

 

 

 そういう彼女の心根は「ぱっと見て伝わる」ものではない。じっくり、時間をかけて、紡ぎだす言葉一つひとつから伝わるものに違いない。わかりやすさが求められる時代だけれど、そうじゃない価値もきっとある。

 

 

 

これからのこと

 

 

 

 石山さんに、今後の目標を聞いてみたら、随分考えた後、こう言った。「暮らしがラクになる術を“お母さん”以外の人にも届けたい」。

 

 

 

それは幼稚園教諭のときに、色々な家庭の子どもを見てきたからだ。お母さんだけのおうち、お父さんだけのおうち、両親がいない子…。「頑張っているのはお母さんだけじゃない」そう感じるのも実体験からだ。

 

 

 

 整理収納を伝えるなら、なんと言っても“お母さん”がニーズの母数としては大きいだろう。石山さん自身もお母さんであるから、同じ属性の人に伝えることが一番やりやすいはずだ。でも、「整理収納=お母さん」に違和感を覚えるのは、数や接しやすさよりも、悩みの深さこそ、彼女にとっては優先度が高いからなのだと思う。

 

 

 

本当に困っている人を、石山さんらしい方法で救いたいと考えたとき、それはもしかしたら「整理収納」の分野に留まらないのかもしれない。苦しい経験をし、そこから立ち上がった経験もし、今も病気と隣り合わせであるという状況にある石山さんだからこそ救える人がきっといる。「私は一回死んだ。だからこそ、生かされている今、悔いのない人生を送りたい」という強い想いを持つ彼女は、考えたことを行動に移せるようになった。自分の求める真の方向性が見つかったとき、迷うことなく、動き出せるのだろう。

 

special thanks to tomoko ishihara

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